塩は食品保存のカギ
今回のテーマは『塩』、そして『発酵』。
塩は人間の生命活動にとって欠かせないものですが、『食品を保存する力』も私たちにとって重要なものです。
私たち日本人が大好きな漬物や発酵食品とも深い関係があります。
現代の食品保存といえば、冷蔵庫。
冷蔵庫が開発されたのが1930年代。ほとんど家庭に行き渡るのが1970年代です。
今となっては冷蔵庫のない生活は考えられないくらい生活の一部となりました。しかし、90年前より以前は冷蔵庫がない暮らしを送ってきたのです。
そのカギとなるのが塩と発酵です。
食品の保存という点で、塩と発酵は冷蔵庫に勝ります。なぜなら冷蔵庫は腐るのを遅らせるだけであり、塩と発酵は本質的に腐らせなくすることも出来るからです。
私たちは塩と発酵の関係について学んできましたが、書籍やインターネットには様々な情報や考察が飛び交い、ちゃんと理解するのはかなりの時間を要します。
今回の記事は、私たちは学んだ内容をかみ砕いて説明します。
塩は食品の水分を抜く
食品を塩に漬けると、食品の中の水分が外に出されます。
これは塩による浸透圧の作用です。
水分は濃度の低い方から高い方へ移動しますので、野菜の細胞から水分は抜けていきます。
塩分を取り過ぎて顔などが浮腫(むく)んだ経験のある方はいると思います。
これは体液中の塩分濃度が高くなると、その濃度を薄めるために細胞の中から水分が出てくることによって生じます。
食品が腐る原因は、菌などの微生物が食品中の水分で繁殖するからです。
食品が脱水されることで微生物は活動できなくなり、結果として腐敗が起きなくなります。
※また、野菜と同様に微生物自体も塩分によって水分を奪われるため、活動が抑制されるという情報もありました。
食品を腐らせない塩分濃度
常温でも腐敗が起きにくい発酵食品の塩分濃度を見てみましょう。
〇味噌:10~15%
〇醤油:15~17%
〇梅干し:20~22%
これらを見ると、塩分の濃度が大体10~15%程度あれば腐敗を防げると思われます。
腐敗菌の多くは塩分濃度5~10%で繁殖できないようになると言われています。
ちなみに、野菜の塩漬け(乳酸発酵)も常温で長期保存したい場合は10~15%の塩分濃度にするそうです。
ぬか床の平均的な濃度も10%程度です。
なぜ発酵するのか
塩によって腐敗が防げることは分かりました。
では、塩たっぷりの食品でなぜ『発酵』は起きるのでしょうか。
『腐敗』も『発酵』も、菌が活動して起きることに違いはありません。
実は、菌の中には『好塩菌』や『耐塩菌』と呼ばれる塩分濃度が高い状態でも活動できるものがいます。
発酵に関わる乳酸菌、麹菌、酵母などがこれにあたり、ある程度の塩分濃度でも活動するが出来ます。
腐敗を防げる塩分濃度『10~15%』は【腐敗は起きないけど発酵は起きる】絶妙なバランスであると思われます。この値の中で腐敗菌は死滅しますが、発酵菌は繁殖できます。
そして、塩分濃度20%を超えると、発酵に関わる菌も活動できなくなります。
その実例として、伝統的な作り方で塩分濃度が20%に近い『梅干し』は、実は菌たちの活動は関与しておらず、発酵食品ではありません。
梅干しは塩と天日干しによる脱水と、梅自体が持つクエン酸で腐敗を防いでいます。
発酵するとさらに腐敗を防ぐ【乳酸発酵】
塩による防腐効果に加えて、発酵が始まるとさらに腐敗しにくい状態になります。
乳酸発酵による『塩漬け』を例に見てみましょう。
漬物の中で最も古い歴史があるといわれる『塩漬け』。
保存のために野菜を塩に漬けたところ、野菜についた乳酸菌が自然に発酵したのが始まりではないかと言われています。
乳酸菌は、糖分を分解して乳酸をつくる菌たち。
私たちの腸内や、自然界のあらゆるところに存在しています。
前述したとおり、通常の菌は塩分濃度が高くなるにつれて活動しにくくなります。
乳酸菌は、他の菌が弱まったタイミングで活動を始めて野菜の糖分を『乳酸』に変えていきます。
乳酸が増えることで酸味が加わります。
さらに周囲は乳酸によって酸性に傾き、酸に弱い腐敗菌たちをさらに活動できないようにします。
乳酸発酵による塩漬けは、『塩』と『乳酸菌』の連携プレイによる作品といえます。
まとめ
今回は『塩』と『発酵』というテーマで記事を書いてみました。
今回記載した塩分濃度の数値などはたくさんの情報と私たちの実経験から『おそらくこれくらいだろう』というくらいのものです。
現代は冷蔵庫もありますし食品は腐りにくい環境です。野菜の塩漬けをする場合、塩分濃度2~3%でも乳酸発酵は起きます。常温では腐敗の可能性がありますが、冷蔵庫なら日持ちします。
環境に合わせてベストな塩の量を見くのは楽しいと思います。皆様も、いろいろ試してみてください。